動きの出発点
こんにちは。西宮市、夙川グリーンプレイス内、藤本整形外科循環器内科クリニック、理学療法士の泉本です。早いもので2月に入りました。体調はお変わりありませんか?
前回、前々回から続いて本日も体幹筋の特性について述べていきます。近年では体幹筋強化から動きのしなやかさに繋げる「ピラティス」も普及してきています。なぜ注目され、あらゆる動作、スポーツでも大事と言われるのでしょう?端的に言うと「動作が始まる時に筋活動が起こるはじめの場所」だからです。
その事実を簡単に実感してみましょう。モノを取るために手を伸ばすとします。反対の手は腹部に触れていて下さい。すると伸ばそうとする手が動く寸前に反対の手で触れている腹部が「ピッ」と固くなるのが分かります。重いものを持ち上げる直前にも、無意識に「フッ」と息を止めて体幹部分を固めています。このように体幹の筋肉は意識されることなく手足に先行して動くようになっています。
体幹の重要性をずっと以前から重視してきたのは、古来からある日本の武道と言われています。武道の大半はおへそのやや下にある「丹田(たんでん)」に力を入れることを重んじられてきたそうです。
なぜ重視するのか?それは体幹が安定していると手足を自由に使えるからです。勝負を決する武道では動きにバリエーションがある方が有利となります。体幹の安定性(スタビリティ)が自由な動き(モビリティ)を保証してくれるのです。手足を動かすのに体幹部分が不安定では重心が定まらず構えも整いません。
日本舞踊や茶道でも体幹部分の安定感を大切にしています。安定感があると姿勢や所作もきれいに見えます。バレエダンスでは常にお腹を引き上げるようにし体幹部分を引き締めて踊ります。そうすることで動きのバリエーションが増え、より表現力豊かに踊ることができます。お辞儀も上体をぶらさず股関節から倒すとよりきれいに、丁寧に見えます。
では手足に先行して体幹部分が働くのはなぜでしょう?歩く際は自然と対側の腕と足を出すように上半身と下半身は常に協調して動いています。その上半身と下半身をつなぐのは体幹部分です。重力下で二本足で立つヒトの場合、運動でも日常動作でも運動エネルギーの元となるのは下半身です。体幹がぶれない軸となり回転することで下半身の力が無駄なく上半身へ伝わります。手足自体の重みや慣性に負けて体幹が潰れてしまうと運動エネルギーをロスして効率が悪くなります。例えば野球のピッチャーが投球時に体幹部分が崩れると下半身の力が上肢に伝わらずいわゆる「手投げ」状態となります。鍛えて強くして機能的になると上半身と下半身が互いの力を伝え合う運動連鎖=キネティック・チェーン(筋・関節の連携、多くの筋肉が順番に収縮して拡がっていくこと)がよくなり、本来の力が発揮されます。
末端の動きに先行して体幹が動くのが鉄則です。「投げ釣り」で思い切って釣り竿を振ると、遅れて竿の先端がしなりエサのついた部分を遠くに飛ばすことができます。同じように物を投げたり蹴ったりする際も体幹がしっかりと固定された後、アームとして手足が動いて大きな力が発揮されます。体幹部分はあらゆる動きの出発点であり動きを保証してくれる役割といえます。
いかがでしょうか。体幹機能の大切さ、素晴らしさを理解してもらえたら幸いです。次回はまた具体的なトレーニング方法をご紹介していきます。